自筆でなくワープロでの遺言書も秘密証書遺言なら有効
2007年6月18日 第645号
Aさんには妻子がいません。このままだと遺産は兄弟にいきます。弁護士に依頼し遺言書を残します。所有する不動産を遺言執行人であるその弁護士に売却してもらい費用等を差し引いた残額を財団法人に遺贈します。
弁護士は遺言書をワープロで作成し、末尾にAさんの署名押印をもらいます。
このままだと遺言書としては無効です。自筆証書遺言はアタマからシッポまで全てAさんの自筆でなくてはいけません。だからワープロ遺言書は自筆証書遺言としては無効なのです。
ワープロなら秘密証書遺言 民法970条は秘密証書遺言として次の4つの要件を求めます。
(1)遺言者が署名し印を押す
(2)遺言者がその証書を封じ証書に用いた印章をもってこれに封印する
(3)遺言者が公証人と証人2人の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述する
(4)公証人がその証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載し遺言者及び証人とともにこれに署名し印を押す。
この秘密証書遺言では自筆証書遺言のように自筆であることは求めません。署名押印さえすれば他人が書いた文書でもかまわないのです。そしてワープロでもOKです。ワープロ打ちした(してもらった)遺言書に署名押印すればいいのです。
長文の自筆証書遺言を書くのは大変ですが、ワープロでの遺言なら作成容易です。
さてAさんの弁護士はこのワープロ遺言書を秘密証書遺言にしました。公証人と弁護士ら証人の面前で、Aさんは「私の自筆による自己の遺言書」と申述し公証人がその通りに封紙に記載しました。Aさんは翌年亡くなります。そしてAさんの兄弟が遺言無効の確認を求めて裁判をおこします。
問題点はAさんが「自筆」と申述したことです。Aさんが自分でワープロを打ったのならいいのですが、ワープロは弁護士(及びその事務員)でしたから。
筆者が違ったら遺言は無効 秘密証書遺言についての前記の要件(3)には遺言書の筆者の氏名住所を申述しろとあります。
秘密証書遺言では遺言者は署名押印だけでいいのです。つまり別の「筆者」が存在することが前提となっています。だからその「筆者」が誰なのかを明確にすることを求めるのです。
Aさんは公証人の前で「自筆」とではなく「筆者は弁護士」と申述すべきでした。この遺言書は無効となりました。
(大阪高裁平成13.12.4.)
別ケースです。相続人の嫁が、遺言書の書き方本の見本通りにワープロで「全財産を誰々に」という遺言書を作成し、相続人は日付と名前だけを記入します。
相続人は入院中でしたので、公証人と証人役の弁護士に、病院にまで出張してもらい、申述し秘密証書遺言としました。
相続人はここで「遺言の筆者は私」と申述します。
これも裁判となり「筆者は嫁」だとして遺言書は無効になりました。(最高裁平成14.9.24.)
ワープロでの遺言書は有効 さて遺言書の筆者についてそれぞれ「弁護士だ」「嫁だ」と堂々と申述していればこれら遺言書は無効でなく有効でした。
長文の自筆証書遺言作成は大変です。しかしワープロで、それも他人にワープロを打ってもらっても、秘密証書遺言にすれば有効なのです。注意は「筆者名」を正しく申述することです。
ワープロ遺言書を持って、証人2人を連れて公証人役場に出向けば秘密証書遺言になります。自筆証書遺言と同じ効果です。
公証人手数料はわずか11,000円。この負担でワープロ遺言書が有効な遺言書になります。
なお、未成年者、推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族は証人にはなれません。また公正証書遺言と違い公証人が遺言書を保管することもありません。確実なのは、もちろん公正証書遺言です。
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