遺留分減殺請求と相続開始年分贈与

遺留分減殺請求と相続開始年分生前贈与と贈与税の関係



遺留分減殺請求と相続開始年分生前贈与と贈与税の関係


2007年9月24日 第658号

相続争いをなくすには遺言です。遺言があれば遺産分割協議不要です。しかし遺言があっても遺留分減殺請求があります。

相続争いを完全になくすなら遺言と遺留分放棄のセットです。相続争いは完全になくなります。

しかしなぜこのような面倒なことをするのでしょうか。

遺言で財産の行方を定めるより、生前贈与がシンプルです。では贈与がなぜできないのか。

原因は「贈与税」。多額の贈与税を払うことはできない…。

劇薬があります。相続開始年分の贈与です。相続開始年分の贈与は贈与税ではなく、相続税になるからです。


相続開始年分の贈与は相続税


4月に病床の親から1億円贈与を長男が受けます。通常なら翌年3月に贈与税約5000万円です。

しかし親が12月までに亡くなったらどうなるでしよう。この1億円の贈与は贈与税の対象でなく、相続税の対象となります。


相続税には相続開始前3年間の贈与の贈与税は相続税で計算し直し清算する仕組みがあります。3年間で1000万円の贈与を受け贈与税300万円を払ったのなら、相続税の計算で相続財産に1000万円を加算し、算出された相続税額から既に払った贈与税額300万円を差し引きます。

つまり相続開始前3年内の贈与は相続税で清算し、実質的には相続税の対象とするのです(なお贈与財産には小規模宅地評価減等の特例が使えません)。

相続開始年分の贈与も同じですから、一旦は贈与税を申告納税し、改めて相続税で清算するべきです。しかし同年内なら面倒だから贈与税申告なして相続税申告だけで済ませていい、ということです。だから相続開始年分の贈与は贈与税なしで相続税課税だけなのです。

贈与した財産はどうなるか


すでに贈与済み財産なら、相続財産目録には入ってきませんし、遺産分割協議の対象にもなりません。他の相続人は気が付かないままかもしれません。

もちろん気付いたら大喧嘩は必至です。また相続税申告書に1億円贈与の事実を記載しないといけません。普通の人が見破るのは難しくとも、プロが申告書を見ればすぐ分かります。

「贈与は架空だ」として相続財産に回復させるため他の相続人は訴えようとします。また相続分算定に際しては生前贈与財産も相続財産に加算しますし、贈与財産であっても遺留分減殺の対象ともなります。


全財産の生前贈与を無条件に許せば、民法が遺留分を定める意味がなくなります。そこで民法は「相続開始前1年以内の贈与」と「遺留分権利者に損害を与える贈与」について遺留分減殺の対象とします(民法1030条)。

この「損害を与える」か否かは広く解釈され、損害を与える目的がなくとも遺留分を意識すれば該当するようです。そもそも、それが目的なら該当するのが当然ですし、それには相続税での3年間のような期間限定もなく、何年たっても該当し続けます。争えば遺留分減殺の対象にもなってしまうでしょう。

ただし立証責任は遺留分減殺請求をする側にあります(大判大10.11.29.)し、最初から大喧嘩覚悟なら、相続開始年分の生前贈与は強烈です。負けたとしても贈与財産は遺贈(遺言によるもの)財産の後でなければ減殺取り戻しの対象になりませんので、贈与財産は守れます。

最大のリスクは


最大のリスクは、幸せなことに親の病状が回復し翌年以降まで長生きすること…贈与税を払うことになってしまいます。また遺産分割争いの結果で何も相続しなくなると相続税でなく贈与税になってしまうことです。

直前贈与に限らず、基礎控除2500万円相続時精算課税制度を使えば何年もかけゆっくり対策できます。また従来型の基礎控除110万円贈与で毎年延々と続けることもできます。

直前ではなく延々と昔の贈与なら、請求する側からは分かりづらく請求しづらくなります。

遺留分放棄と遺言との組み合わせが相続争いへの対策(2007年9月17日 第657号)




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